登場人物
僕、ヤル気の起きない大学受験生。でも、チキン・ハートでびびってる。
アイツ、死んでしまった人、夢を叶えられなかった僕の恋人だった人。
物語の骨子
季節は冬、冬休み間近の放課後の教室。
皆がせせくさと勉強するのを冷ややかに見ている。
そして、アイツとの約束について考える。
短編、400字詰めで10枚程度を予定
じゃ、スタート
窓から手を伸ばせばパラパラと空から舞い降りる小さな小さな雪が掌に触れて儚く消えていった。そして微かに学ランに雪が積もり、溶けて小さな染みを作り冬の冷たい風が教室に流れ込んだ。下級生達は如何にこの寒い中より早く帰る事が出来るか、それを思いながら足早に傘を差して歩いている。路面が凍結し、3日程前に自転車で登校中の生徒がスリップして腕を複雑骨折したと云う事もあって、自転車の数は斑だった。雲行きは薄暗く、この分だと晴れるどころか、数時間後には天候が悪化するかもしれない。そして無意識についた溜息が雪の様に白く染まり、またどこかへと旅立って行ってしまった。
多分、それは僕等には決して理解する事の出来ない場所なんだろうと思う。醜い人間の世界なんかじゃなくて、本当に儚く美しいモノだけの集まるところなんだろう。僕は振り返って教室を見ると数は20ほどの生徒がそれぞれ集まったり、一人だったりしながら黙々とシャープペンシルを軽やかとまでは行かないものの動かしている。誰しも表情が明るくなく、実に機械的で、この冬の寒さよりも冷たい感じだった。教室はどちらかと云えばエアコンが効いて暑いぐらいだ。けれども僕はとても寒々しく思える。本来なら希望に満ち溢れ輝いているはずの年齢だと言うのに皆の顔は銅色のそれに近い。
3年生に上がった頃、あの頃の皆は戸惑いや不安の混じった表情はあるものの、自分の将来に期待ははぐらせ夢を語り合っていたと云うのに今では誰一人無駄口を叩かず、話す暇があるなら単語をより多く覚えてやる、といった切羽詰った表情で他の誰にも興味を示していないかの様に参考書を復唱している。
皆、気付いてしまったのだ。僕等の学校はお世辞にも進学校とは言えない中の中、秀才でも不良でも無く、どっちの仲間にもなれない中途半端な連中を中心に集まっている。だからこそ、今と云う一時を勉強に費やすのだろう。気を抜けば蹴落とされ、人生の落伍者となる。それが嫌で嫌で堪らないから、皆機械みたいな表情で好きでも無い知識を限りある脳味噌に詰め込んで行っているのだ。
分からなくも無い、でも、僕にはそれが不思議で堪らなかった。躍起になってまで勉強して、いい大学に入って、いい会社に就職して、安定した生活を送り、テンプレートの様な人生を生きて死んで行く事がとても不思議だった。少し前の僕もその決まった線路を走り、一先ずの目標であり、通過する駅、大学に入学する勉強をしていた一人だった。
けれども僕は、逸脱してしまった。子供達の現代社会、子供とは言え弱肉強食の世界、いや、子供とは言わず、もう大人の仲間へと片方の足を底の無い泥濘に浸けているのかも知れない。大人になると云う事は妥協すると云う事だ。となると、僕は大人の仲間なのかも知れない。
しかし、そんな事を思う内はまだまだ僕の尻も青い赤ん坊で、子供なのだろう。無意識の妥協ではなくて、目標を失い、ヤル気を失い、終結点とは何であるかまた見つけなければならない途方も無い旅をする旅人なのだ。
夢があるのなら、どれほど気楽で、どれほど情熱的でいられたのだろう。アイツも夢があれば人間は何度でも立ち直る事が出来る、そう言っていた。けれど、僕には明白な夢が何一つ無い。あの頃の様に馬鹿みたいに笑って、何時の間にか夕日が暮れ、別れを告げ夜を寝て、また朝出会って笑い合う、そんな幸せな一時があれば僕も夢を持てるのかもしれない。ifを求め、何一つ動く事無く受動的で、何も定まらない僕には能動的で、直球勝負なアイツが居なければ成り立たない。
失われた瞬間は戻らない、そして、失われた命は戻らない、アイツの姿はこの地上の何処にも無い。この窓の外の雪や、僕の吐いた息の様に空へと消えて行ってしまった。6月の視界が靄がかった少し雨の降る日、アイツは真っ赤なオートバイを更に染め上げて突然逝ってしまった。首を折って即死だった。
その日から数週間、僕は虚脱感に襲われ、部屋から出る事が出来なかった。涙は出なかった。理解出来なかった、あんなに素直すぎるアイツが、こんな事故で永遠に失われ手しまう事が、もう二度と会えない事が、悲しいを超越した何とも云えないこの感情。
最期にアイツと会う事は出来なかった。アイツの顔は鉄塊と道路に叩き付けられ、擦れ合い、ズタズタに引き裂かれ、アイツの良心すらアイツの顔を直視出来ず、涙を浮かべ僕に彼女の顔を見てやら無いでくれと懇願した。だから、いや、怖かったのかも知れない。自分の中のアイツの思い出をアイツと対面した瞬間に永遠喪失してしまう事が怖かったのだ。だから逃げた。逃げ出した。自分の殻に篭って、アイツとの約束を失った。
アイツは歌が上手かった。その辺に居る愛想だけを振舞う馬鹿なアイドルとは違って、本物だった。
なんか、よくある話になったんで、終わり
僕、ヤル気の起きない大学受験生。でも、チキン・ハートでびびってる。
アイツ、死んでしまった人、夢を叶えられなかった僕の恋人だった人。
物語の骨子
季節は冬、冬休み間近の放課後の教室。
皆がせせくさと勉強するのを冷ややかに見ている。
そして、アイツとの約束について考える。
短編、400字詰めで10枚程度を予定
じゃ、スタート
窓から手を伸ばせばパラパラと空から舞い降りる小さな小さな雪が掌に触れて儚く消えていった。そして微かに学ランに雪が積もり、溶けて小さな染みを作り冬の冷たい風が教室に流れ込んだ。下級生達は如何にこの寒い中より早く帰る事が出来るか、それを思いながら足早に傘を差して歩いている。路面が凍結し、3日程前に自転車で登校中の生徒がスリップして腕を複雑骨折したと云う事もあって、自転車の数は斑だった。雲行きは薄暗く、この分だと晴れるどころか、数時間後には天候が悪化するかもしれない。そして無意識についた溜息が雪の様に白く染まり、またどこかへと旅立って行ってしまった。
多分、それは僕等には決して理解する事の出来ない場所なんだろうと思う。醜い人間の世界なんかじゃなくて、本当に儚く美しいモノだけの集まるところなんだろう。僕は振り返って教室を見ると数は20ほどの生徒がそれぞれ集まったり、一人だったりしながら黙々とシャープペンシルを軽やかとまでは行かないものの動かしている。誰しも表情が明るくなく、実に機械的で、この冬の寒さよりも冷たい感じだった。教室はどちらかと云えばエアコンが効いて暑いぐらいだ。けれども僕はとても寒々しく思える。本来なら希望に満ち溢れ輝いているはずの年齢だと言うのに皆の顔は銅色のそれに近い。
3年生に上がった頃、あの頃の皆は戸惑いや不安の混じった表情はあるものの、自分の将来に期待ははぐらせ夢を語り合っていたと云うのに今では誰一人無駄口を叩かず、話す暇があるなら単語をより多く覚えてやる、といった切羽詰った表情で他の誰にも興味を示していないかの様に参考書を復唱している。
皆、気付いてしまったのだ。僕等の学校はお世辞にも進学校とは言えない中の中、秀才でも不良でも無く、どっちの仲間にもなれない中途半端な連中を中心に集まっている。だからこそ、今と云う一時を勉強に費やすのだろう。気を抜けば蹴落とされ、人生の落伍者となる。それが嫌で嫌で堪らないから、皆機械みたいな表情で好きでも無い知識を限りある脳味噌に詰め込んで行っているのだ。
分からなくも無い、でも、僕にはそれが不思議で堪らなかった。躍起になってまで勉強して、いい大学に入って、いい会社に就職して、安定した生活を送り、テンプレートの様な人生を生きて死んで行く事がとても不思議だった。少し前の僕もその決まった線路を走り、一先ずの目標であり、通過する駅、大学に入学する勉強をしていた一人だった。
けれども僕は、逸脱してしまった。子供達の現代社会、子供とは言え弱肉強食の世界、いや、子供とは言わず、もう大人の仲間へと片方の足を底の無い泥濘に浸けているのかも知れない。大人になると云う事は妥協すると云う事だ。となると、僕は大人の仲間なのかも知れない。
しかし、そんな事を思う内はまだまだ僕の尻も青い赤ん坊で、子供なのだろう。無意識の妥協ではなくて、目標を失い、ヤル気を失い、終結点とは何であるかまた見つけなければならない途方も無い旅をする旅人なのだ。
夢があるのなら、どれほど気楽で、どれほど情熱的でいられたのだろう。アイツも夢があれば人間は何度でも立ち直る事が出来る、そう言っていた。けれど、僕には明白な夢が何一つ無い。あの頃の様に馬鹿みたいに笑って、何時の間にか夕日が暮れ、別れを告げ夜を寝て、また朝出会って笑い合う、そんな幸せな一時があれば僕も夢を持てるのかもしれない。ifを求め、何一つ動く事無く受動的で、何も定まらない僕には能動的で、直球勝負なアイツが居なければ成り立たない。
失われた瞬間は戻らない、そして、失われた命は戻らない、アイツの姿はこの地上の何処にも無い。この窓の外の雪や、僕の吐いた息の様に空へと消えて行ってしまった。6月の視界が靄がかった少し雨の降る日、アイツは真っ赤なオートバイを更に染め上げて突然逝ってしまった。首を折って即死だった。
その日から数週間、僕は虚脱感に襲われ、部屋から出る事が出来なかった。涙は出なかった。理解出来なかった、あんなに素直すぎるアイツが、こんな事故で永遠に失われ手しまう事が、もう二度と会えない事が、悲しいを超越した何とも云えないこの感情。
最期にアイツと会う事は出来なかった。アイツの顔は鉄塊と道路に叩き付けられ、擦れ合い、ズタズタに引き裂かれ、アイツの良心すらアイツの顔を直視出来ず、涙を浮かべ僕に彼女の顔を見てやら無いでくれと懇願した。だから、いや、怖かったのかも知れない。自分の中のアイツの思い出をアイツと対面した瞬間に永遠喪失してしまう事が怖かったのだ。だから逃げた。逃げ出した。自分の殻に篭って、アイツとの約束を失った。
アイツは歌が上手かった。その辺に居る愛想だけを振舞う馬鹿なアイドルとは違って、本物だった。
なんか、よくある話になったんで、終わり
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