何たら大戦序文、シラネ
2006年10月15日 思想移民暦うんたら
その日、宮間直弼は憂鬱そうに深々と帽子を被って彼の為に特別に誂えられた彼専用の席に座って溜息を付いた。
「未定」宙域で演習中に帝國軍の浸透部隊と遭遇し戦闘状態となって早一週間の時が流れた。
事速やかにして誰にも覚られず、まるで空気の如く侵入し目的を達成する隠密である彼等は数は少ないとは言え最新の潜宙艦が投入された。
それにより日本軍の旧式戦艦であり、この艦隊の旗艦である『備後』では到底発見が困難であり、捜索も難航している。
花火の様に美しい光の玉が時折り光り、護衛の駆逐艦が音も無く轟沈して行く様を見るのは到底忍びない。
本来、潜宙艦を真っ先に発見し撃滅するのが駆逐艦の役目である、それは過去から変わる事の無い事実。
戦艦は言わば象徴であり、対要塞戦用の非常に燃費の悪い大砲である。
しかし、ここで引く事はままならない、出来れば拿捕したいところであるが、この現状である。
再び溜息を付き、傍に立つ副官の顔を見る。まだ出来立ての士官であると言うのに顔色が悪い。
慣れぬ戦場での負け戦、本国に支援要請を送っていながらその返答がまだ無いところを見ると我々がとかげの尻尾切りにあった事が分かる。
帝國と我が日本軍の膠着状態が始まって早数百年、突如現れた謎の国家に対して帝國は宣戦を布告したのだ。
それが始まりとなり、終わる事無き戦いが未だに続いている。帝國は新しい国家であり、敵を必要としている。
体の良いターゲットであったと言うわけだ。この地に辿り着いて数百年、日本人は地球に居た頃と同じく事勿れ主義に戻ってしまった。
違う点と言えば明白な軍隊を持ち、有事の際には出動出来ると言う点であろう。
だが、今の大統領はやや左寄りの文民であり、シビリアン・コントロールの敷かれた日本軍では彼等議会が絶対だ。
彼等は我々を見殺しにし、これをカードに帝國との外交を進める予定なのであろう。
「分の悪い事だ」
「指令、士気が下がるのでその様な発言は控えてください」
真っ青な唇を結って副官……名前を思い出せないは言った。その眼に気力は無い。
そして、光線。
光りの尻尾を直線に描きながら、幾本ものの魚雷が吸い込まれる様この艦へと迫る。
艦が揺れ、被害情報の声が各所から上げられる中、宮間直弼は装飾の施された天を仰ぎ、思う。
態々言葉に出さずとも、天球儀の並ぶ三次元投影機には刻々と艦の状況が映し出され更新されている。
そして既に人の技術は艦に人間が乗らずとも自動的に戦闘の出来るシステムを完成してしまっている。
それなのに何故、人間が言葉を発し、誰かがその言葉を聴かなければならないのか。
簡単な話、戦争に対する倫理であり、ルール。戦争にもルールがある。
人の居ない戦争は戦争ではない、血の流れない戦争は感覚を麻痺させ、人は幾らでも残酷になる。
故に人が乗らなければならない、尊き命が散るからこそ戦争はしてはならない、だから早く止めさせる為に戦う。
実に矛盾では無いか、我々の命を救うべく艦隊を派遣するのが日本の大統領の使命であろう。
ここで死せる命は彼等にとって尊き命なのでは無いのだろうか。外には漏らさぬ内なる疑問。
民主主義とは言え軍人であり、軍隊に所属する私がお上の考えに疑問を持つのは御法度だ。
だからこそ、だからこそトップは有能であり、潔癖でなければならない。そして、ポツリと呟いた。
「生きて戻ったのなら、私は政治家になろう」
その日、帝國軍内における強硬派の放った凶弾は挫かれた。そして、数十年ぶりの帝國からの大規模派兵の始まり。
時代と言う時計の針は急速に加速する事となる。
その日、宮間直弼は憂鬱そうに深々と帽子を被って彼の為に特別に誂えられた彼専用の席に座って溜息を付いた。
「未定」宙域で演習中に帝國軍の浸透部隊と遭遇し戦闘状態となって早一週間の時が流れた。
事速やかにして誰にも覚られず、まるで空気の如く侵入し目的を達成する隠密である彼等は数は少ないとは言え最新の潜宙艦が投入された。
それにより日本軍の旧式戦艦であり、この艦隊の旗艦である『備後』では到底発見が困難であり、捜索も難航している。
花火の様に美しい光の玉が時折り光り、護衛の駆逐艦が音も無く轟沈して行く様を見るのは到底忍びない。
本来、潜宙艦を真っ先に発見し撃滅するのが駆逐艦の役目である、それは過去から変わる事の無い事実。
戦艦は言わば象徴であり、対要塞戦用の非常に燃費の悪い大砲である。
しかし、ここで引く事はままならない、出来れば拿捕したいところであるが、この現状である。
再び溜息を付き、傍に立つ副官の顔を見る。まだ出来立ての士官であると言うのに顔色が悪い。
慣れぬ戦場での負け戦、本国に支援要請を送っていながらその返答がまだ無いところを見ると我々がとかげの尻尾切りにあった事が分かる。
帝國と我が日本軍の膠着状態が始まって早数百年、突如現れた謎の国家に対して帝國は宣戦を布告したのだ。
それが始まりとなり、終わる事無き戦いが未だに続いている。帝國は新しい国家であり、敵を必要としている。
体の良いターゲットであったと言うわけだ。この地に辿り着いて数百年、日本人は地球に居た頃と同じく事勿れ主義に戻ってしまった。
違う点と言えば明白な軍隊を持ち、有事の際には出動出来ると言う点であろう。
だが、今の大統領はやや左寄りの文民であり、シビリアン・コントロールの敷かれた日本軍では彼等議会が絶対だ。
彼等は我々を見殺しにし、これをカードに帝國との外交を進める予定なのであろう。
「分の悪い事だ」
「指令、士気が下がるのでその様な発言は控えてください」
真っ青な唇を結って副官……名前を思い出せないは言った。その眼に気力は無い。
そして、光線。
光りの尻尾を直線に描きながら、幾本ものの魚雷が吸い込まれる様この艦へと迫る。
艦が揺れ、被害情報の声が各所から上げられる中、宮間直弼は装飾の施された天を仰ぎ、思う。
態々言葉に出さずとも、天球儀の並ぶ三次元投影機には刻々と艦の状況が映し出され更新されている。
そして既に人の技術は艦に人間が乗らずとも自動的に戦闘の出来るシステムを完成してしまっている。
それなのに何故、人間が言葉を発し、誰かがその言葉を聴かなければならないのか。
簡単な話、戦争に対する倫理であり、ルール。戦争にもルールがある。
人の居ない戦争は戦争ではない、血の流れない戦争は感覚を麻痺させ、人は幾らでも残酷になる。
故に人が乗らなければならない、尊き命が散るからこそ戦争はしてはならない、だから早く止めさせる為に戦う。
実に矛盾では無いか、我々の命を救うべく艦隊を派遣するのが日本の大統領の使命であろう。
ここで死せる命は彼等にとって尊き命なのでは無いのだろうか。外には漏らさぬ内なる疑問。
民主主義とは言え軍人であり、軍隊に所属する私がお上の考えに疑問を持つのは御法度だ。
だからこそ、だからこそトップは有能であり、潔癖でなければならない。そして、ポツリと呟いた。
「生きて戻ったのなら、私は政治家になろう」
その日、帝國軍内における強硬派の放った凶弾は挫かれた。そして、数十年ぶりの帝國からの大規模派兵の始まり。
時代と言う時計の針は急速に加速する事となる。
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